大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和32年(ネ)86号 判決

控訴人 西野虎吉

被控訴人 有限会社ユタカ鍍金工業所 外五名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴会社が昭和二十八年九月一日に開催した臨時社員総会における被控訴人俊雄を取締役兼代表取締役に、被控訴人勝治及び同元吉をそれぞれ取締役に選任する旨の決議並びに被控訴会社が昭和二十九年一月四日に開催した臨時社員総会における被控訴人常太郎及び同鋭太郎をそれぞれ取締役に選任する旨の決議がいずれも無効であることを確定する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出援用及び書証の認否は、控訴代理人において、左記のとおり陳述したほか、原判決事実欄の記載と同一である。

控訴代理人の陳述

被控訴人俊雄、同常太郎、同鋭太郎等は被控訴会社の社員でない。そして同被控訴人等が社員よりその持分の移転を受けたものとしても、社員名簿にその旨の記載がないから、その持分の移転をもつて被控訴会社その他の第三者に対抗することができない。しかるに右の被控訴人等は被控訴会社の社員として本件各社員総会に出席して議決権を行使した。しかのみならず右の被控訴人その他は、その被控訴人等自身を取締役に選任する旨の議案については特別の利害関係を有する者であるから、有限会社法第四十一条商法第二百三十九条第五項により、議決権を行使し得ないことが明白であるにもかかわらず、議決権を行使した。叙上の事実は、総会招集の手続またはその決議の方法が法令、定款等に違反した場合ではなく、総会の決議自体が実質的根本的に法令、定款等に違反した場合にあたる。したがつて本件各総会決議は絶対的に無効であり、控訴人はその無効確認を訴求することができる。

なお右の法律上当然に無効な総会決議によつて取締役に選任された被控訴人俊雄その他の者の取締役の任期が既に満了しているとしても、同人等はその取締役の在任中に会社理事者として種々の行為をしているから、控訴人は、右行為の取消または無効確認を訴求して損害賠償等をなすことができる。されば任期満了の一事によつて、本訴を実益のない訴訟であるとなすことはできない。

理由

被控訴会社が昭和二十一年に成立した有限会社であつて、その資本の総額が金十八万円、出資一口の金額が金百円、出資総口数が千八百口であること、被控訴会社の社員が七名であつて、その氏名及び出資口数が控訴人四百三十口、訴外杉山銀太郎六百五十口、同伊藤政吉二百二十口、同小川新一二百口、同大橋六三郎百口、被控訴人勝治百口及び同元吉百口であつたところ、右銀太郎が昭和二十六年一月十四日に死亡したこと並びに昭和二十八年九月一日開催の被控訴会社臨時社員総会において、被控訴人俊雄を取締役及び代表取締役に選任し被控訴人勝治及び同元吉を締取役に選任する旨の決議があり、昭和二十九年一月四日の臨時社員総会において、被控訴人常太郎及び同鋭太郎を取締役に選任する旨の決議があつたことは、被控訴人等において明らかに争わず、かつ弁論の全趣旨に徴してもこれを争つたものと認めることができないから、叙上の事実はすべて被控訴人等において自白したものとみなすべきである。次に原本の存在及び成立に争のない甲第二号証、成立に争のない甲第三号証、原審における被控訴本人杉山俊雄及び同杉山鋭太郎の各供述並びに弁論の全趣旨を総合して考察すれば、被控訴人俊雄は、右銀太郎の子であつて、その死亡により同人の被控訴会社に対する出資口数六百五十口の持分を相続して社員となつたけれども、被控訴会社の社員名簿にはまだその旨の記載がないこと並びにその他の前記社員六名及びその各出資口数については今日まで変動がなく、被控訴人常太郎及び同鋭太郎は被控訴会社の社員となつたことがないことを推認することができる。そして相続による持分の取得もまた有限会社法第二十条にいわゆる「持分ノ移転」にあたると解すべきところ、被控訴人俊雄の前記相続による持分の取得について社員名簿に記載がないこと叙上認定のとおりであるから、同被控訴人はその取得をもつて被控訴会社その他の第三者に対抗することを得ないものである。

そこで控訴人主張の事由によつて右各総会決議が法律上当然に無効であるかどうかについて判断する。

まず、控訴人の主張のように、(1) 右各総会の開催にあつて控訴人と前記小川新一とに対し所定の総会招集の通知がなされず、(2) 右各総会が所定の定足数を欠くものであり、(3) 相続によつて持分を取得したけれども社員名簿にその旨の記載がない被控訴人俊雄が前記各総会決議に参加して議決権を行使した、と仮定しても(記録によれば被控訴人俊雄はその各決議に参加したと思われる)、それらの決議のかしは、いずれも有限会社法第四十一条によつて有限会社の社員総会に準用される商法第二百四十七条第一項所定の「総会招集ノ手続又ハ其ノ決議ノ方法ガ法令若ハ定款ニ違反シ又ハ著シク不公正ナル」場合にあたるにとどまり、右各決議の当然無効を来たすべき事由とはならないものと解する。

次に社員でない被控訴人常太郎及び同鋭太郎が社員であるとして前記各総会決議に参加し議決権を行使したことを推知し得ベき証拠はない(なお記録を精査すれば、むしろ右両名は、昭和二十八年九月一日の総会決議にはもちろんのこと、昭和二十九年一月四日の総会決議にも参加しなかつたもののように思われる)。そして仮に右の被控訴人両名が前記各総会決議に参加したものとしても、その決議のかしは、前同様商法第二百四十七条第一項所定の場合にあたるにとどまり、決議の当然無効を来たすべき事由ではないというべきである。

次に有限会社法第四十一条商法策二百三十九条第五項により、社員総会の決議につき特別の利害関係を有する者は議決権を行使することができない。そして取締役選任の決議をするにあたつて、一定の候補者を指定せず一般的に「取締役選任の件」という議案が上程された場合には、自薦他薦の事実上の候補者が存在しても、その候補者たる社員は右の特別利害関係者とならないけれども、一定の候補者を指定して具体的に「何某を取締役に選任する件」という議案が上程された場合には、その候補者たる社員は特別利害関係者にあたる、と主張する学説があるけれども、にわかに首肯し難く、社員に原則として出資一口につき一個の議決権を与え、大口出資社員の会社支配を許容している法律の趣旨等から考えれば、右のいずれの場合であるかを問わず、取締役候補者たる社員は右の特別利害関係者にあたらないものと解するのが相当である。しかのみならず、右の特別利害関係者たる社員が参加し前記条項に違反して議決権を行使した総会決議といえども、前同様商法第二百四十七条第一項所定の場合にあたるにとどまり、当然無効ではないと解すべきである。

次に有限会社法第三十二条は、商法第二百五十四条第一項及び第三項を準用しているにもかかわらず、同条第二項を準用していないから、有限会社においては定款をもつて取締役は社員であることを要する旨を規定することができるものといわなければならない。そして定款にその旨の規定がない場合には、社員でない者を取締役に選任し得るものと解すべきである。ところが、原本の存在及び成立に争のない甲第一号証によれば、被控訴会社の定款には右の趣旨の規定がないことを認めることができるから、被控訴会社においては取締役は社員たることを要しないのである。したがつて被控訴人俊雄が社員であることをもつて控訴人に対抗することができず、また被控訴人常太郎及び同鋭太郎がいずれも社員でないこと前記のとおりであるけれども、そのことは右の被控訴人等を取締役に選任した前記各総会決議の効力にはなんらの影響もないことが明白である。

以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は理由なしとして棄却すべく、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条により、主文のとおり判決をする。

(裁判官 北野孝一 大友要助 吉田彰)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例